「いちどに道路ぜんぶのことを考えてはいかん、わかるかな? つぎの一歩のことだけ、次のひと呼吸のことだけ、つぎのひとはきのことだけを考えるんだ。いつもただつぎのことだけをな。」
ミヒャエル・エンデの名作「モモ」にでてくる無口なおじいさん、道路掃除夫ベッポがモモに語りかける言葉です。
ベッポはみんなに何か聞かれても、すぐ返事をしないし、頭が少しおかしいんじゃないかと思われている。
というのも、ベッポは質問をじっくりと考えるので、やっと答えたときには質問した人はもう何を聞いたかすら覚えていない。
その結果、ベッポの答えに首をかしげて、おかしなやつだと思ってしまう。
でも街の小さな円形劇場の廃墟に住みついた女の子「モモ」にとって、道路掃除夫ベッポは大の仲良し。
ベッポは仕事がすんでモモとならんで腰かけているとき、自分に生じた考えをモモに話すのだった。
ぴったりした言葉をさがしながら、とてつもなくゆっくりと。
ベッポは話を続ける。
「するとたのしくなってくる。これがだいじなんだな、たのしければ、仕事がうまくはかどる。こういうふうにやらにゃあだめなんだ。」
そしてまた長い休みをとってから、先を続ける。
「ひょっと気がついたときには、一歩一歩すすんできた道路がぜんぶ終わっとる。どうやってやりとげたかは、じぶんでもわからん。」
彼は一人うなずき、こう結ぶ。
「これがだいじなんだ。」
ベッポが来る日も来る日も、おそろしく長い道路と格闘するなかで生じた哲学。
先が見えなくて心配でたまらなくなっては働きまくり、しまいにはは息が切れて動けなくなってしまう。
そんな労働の中から自分の内に生まれたある境地が、重みのある言葉となる。
この2か月ほど、することが立て込んでいたが、いつも通りにと思いながら過ごしていた。
そう、いつだって目の前のことをやっていくだけ。
カーステレオから流れるニニ・ロッソの音色に身を浸そう。
今夜も月を見上げよう。
(太字部分) ミヒャエル・エンデ作 大島かおり訳 岩波書店「モモ」より引用


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