毛糸の手袋

毛糸の手袋を買ってきた。

長年愛用の手袋をお正月に実家に忘れてきてしまい、すぐ取りに行ける距離でもないのを言い訳に新しく買い求めた。

 

手袋は毛糸のものが好き。

幼い日の体験が影響している。

小1の頃まで、手袋といえば毛糸のものしか知らなかったと思う。

左右の手袋を、母がかぎ針で編んだひもでつないでくれた子供らしいものをしていた。

こうすれば、片方の手袋を落としたり失くす心配もない。

 

その幼児仕様の手袋を卒業したのは小2のとき。

幼馴染のKちゃんが、ある日とても素敵な新しい手袋をはめてきた。

ピンクのナイロン製で、手首の部分にふわふわのフェイクファーがついている。

Kちゃんのお母さんは、メナード化粧品の販売をしていて、ちょっとした雑貨も扱っていた。

その関係で、Kちゃんはその素敵な手袋を手に入れたらしい。

今まで毛糸の手袋しか知らなかった私と同級生のHちゃんは、たちまちその手袋に魅了された。

そしてどういうわけか、数日後に私とHちゃんもその手袋を手に入れたのである。

私は色違いの赤、Hちゃんはピンク。

おそらく私とHちゃんは、それぞれ家に帰ってKちゃんの手袋のことを話したに違いない。

私の母とHちゃんの母は、「そんなに素敵な手袋なら わが娘にも…」とKちゃんの母に取り寄せを頼んだものと思われる。

 

ところが、いざ使ってみるとその手袋には難があった。

ちっとも温かくないのである。

指先がじんじん冷えて耐えられなくなる。

時々しゃがんでは、太ももとふくらはぎの間に手袋ごと手を挟み、体温で温める始末。

 

この経験を経て、毛糸の手袋への思い入れが強くなった。

見た目に魅かれスエードの手袋を使ったこともあったが、やはり毛糸の手袋の温かさに戻った。

 

先週から手もかじかむ寒い日が続いている。

雪のちらつく日に、毛糸の手袋をはめて出かけるとき、新見南吉の「てぶくろをかいに」というお話を思い出す。

雪の日、きつねのお母さんは子ぎつねの片方の手だけ人間の子供の手に化けさせ、人の店に手袋を買いに行かせる。

「このおててに、ちょうどいい手袋をください」

うっかり差し出した手は、化けた手ではなく、きつねの手。

あのとき子ぎつねが無事に買うことができた手袋も、毛糸の手袋だったんだろうな……