愛知県美術館で開催中の「ゴッホ展 家族がつないだ画家の夢」を見てきた。
今回はファン・ゴッホ家が受け継いできた、ファミリーコレクションに焦点をあてた展覧会ということで、特に楽しみにしていた。
かねてからゴッホに魅かれると同時にゴッホの家族、とりわけ弟のテオとその妻ヨーに興味を抱いていた。
「ゴッホの手紙」(小林秀雄著 新潮文庫)を読むと、ゴッホと弟夫婦のつながりをかなり読み取ることができる。
ゴッホの家族であることは、生易しいものではなかったようだ。
兄ゴッホの生活と精神的な支えとなりながら、すさまじく傷つけあいもする。
しかしゴッホに翻弄されながらも、テオとヨーはその人柄を深く愛した。
生まれた男の子に「兄さんのような人に」とゴッホと同じ、フィンセントという名前を与えたことからもそれがわかる。
ゴッホが銃で自らを撃ち死の床にあるとき、テオに残した最後の言葉は「さてもう死ねそうだよ」というものだったという。
ゴッホの臨終に際して、テオより母親に宛てた手紙の一節がある。
「この悲しみをどう書いたらいいかわかりません。この悲しみは続くでしょう。私の生きている限り、きっと忘れることができますまい。ただ一つ言えることは、彼が望んでいた休息を、今は得たという事実です。(略)ああ、お母さん、実に実に大事な兄貴だったのです」 (ゴッホの手紙)より(小林秀雄著 新潮文庫)
兄の自死という荷は、テオには重すぎた。
間もなく彼は発狂し、兄の死から半年後に精神病院で亡くなる。
妻ヨーと、まだわずか2歳の息子フィンセントが残された。
兄を支え、その作品の大部分を保管していたテオ。
その妻ヨーもまた、義兄ゴッホとその作品の真価を深く理解しており、その膨大な作品を世に出すことに生涯を捧げる。
テオとヨーの息子フィンセントは、フィンセント・ファン・ゴッホ財団を設立し、ファン・ゴッホ美術館の開館に尽力した。
「人びとの心を癒す絵を描きたい、100年後の人々にも自分の絵を見てほしい」というゴッホの夢は、家族によって完成された。
会場のゴッホ作品からは、森羅万象への愛があふれていた。
生身のゴッホと愛をわかちあった家族が守ってきたコレクションならではの、温かい作品群だった。
ゴッホ家の物語は凄まじい。
例えば「波乱万丈」などという言葉で表わせるものではない。
本当に輝くものは、言葉さえ凌駕する混沌の中から生まれてくるのかもしれない。
ゴッホと家族が起こした愛の奇跡は、今も響き続けている。
2026年の今日を生きる私をも癒してくれる。
